Yurika Kodama Official blog

広島県出身、東京藝術大学大学院卒。ソプラノの小玉友里花のブログです。日々の出来事やオペラや歌曲など音楽についてのあれこれ、演奏会情報などを更新しています。

知られざるショパン歌曲

こんにちは。

暑さが少しずつ和らぎ、夜はとても過ごしやすくなって参りましたね。
「今年の夏は暑かった」と毎年のように言っていますが、それでもやっぱり「今年の夏は暑かった」ように思います。

寒暖差に人一倍弱いのに、早くも次の季節を待ちわびる小玉友里花です。

 

今回は、世界中が愛してやまない大作曲家ショパンの、あまり知られていない魅力についてお話をしたいと思います。 

 

フレデリック・ショパン−生誕210年

 今年、2020年は、フレデリック・ショパンFrédéric Chopin (1810-1849)の生誕210年の年にあたるそうで、この春には東京では練馬区美術館ショパン展が開催されていました。(現在は静岡市美術館で開催中のようです。)

 私も足を運んだのですが、とても素敵な展示会で、ショパンの生きたワルシャワの当時の様子や、よく見慣れたショパン肖像画の日本初公開や、自筆譜も目にすることができました。 

 個人的にとても面白かったのは、『24の前奏曲 24 Préludes』を聴いて得たイメージを絵画に描いた作品でした。実際に音楽と共に観賞するとイマジネーションが刺激されて、音楽の無限の可能性を改めて実感しました。(肝心な画家の名前をメモしておりませんでした…。もし静岡近郊にお住まいでご興味ある方はチェックしてみてくださいね。)

 

ショパンについて

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撮影者:Monika Neumann

 私が紹介するまでもないかもしれませんが、あらためてショパンについて。

 ショパンポーランドワルシャワに生まれ、後にフランスのパリで活躍しました。音楽史的に言えば、前期ロマン派の時代を代表する作曲家です。作品のほとんどはピアノ独奏曲が占めており、ピアノ表現の新たな時代を開拓したといっても過言ではありません。多種多様で美しい表現によって「ピアノの詩人」という異名まで付けられるほど、当時からその才能は非常に偉大なものでした。

 また、現代でも彼の名前を冠したショパン コンクール *1は世界のピアノストの憧れの舞台となっています。技術が進歩し、ピアノという楽器が時代と共に進化しても尚、表現を追い求めればキリがなく、ピアニストを駆り立て続けるような、謂わば金字塔のような存在であることが分かります。

 

 そんなピアニストにとっての憧れのショパンですが、実は歌曲があるのをご存知でしょうか?

 

『17のポーランドの歌』

 ショパンといえば思い浮かぶのはピアノ曲ばかりなので、「歌曲なんて書いていたの?」と思う方も多いと思います。

 実は、ショパンは人生の折に触れては歌曲を書いていたんです!

 

 数はそう多くなく、現在見つかっているだけで19曲ほどです。どれも聴きやすい美しい曲で、ピアノ曲のように壮大であったり力強かったりはせず、あまり華やかな作品ではないものの、素朴さが魅力的な楽曲が並びます。


 また、ショパン自身も、生前に自分の歌曲楽譜を出版することはなく、彼の死後に、友人のユリアン・フォンタナ Julien Fontana (1810-1867)の手により、歌曲全19曲のうち17曲が作品番号74番ポーランドの歌 17 Polish Songsとして世に出たのだそうです*2

 

 昨今では少しは聴ける機会もあるかもしれませんが、ポーランド語のハードルとショパン歌曲の知名度の低さが相まって、日本で聴ける機会はほとんどないかもしれませんね。私も今のところ、2011年に行われたマリエッラ・デヴィーア Mariella Devia の来日ソプラノリサイタルの中で、一度聴いたのが最初で最後の思い出になっています。

 いつか自分でも歌ってみたいのですが、まずは言語の発音から習得する必要がありますので、気持ちとしては今すぐ歌いたいけれど、やっぱり「いつか」歌うことになりそうです。

 

 今回はそんなショパンポーランドの歌 17 Polish Songsより、第12曲「いとしい人」という曲をご紹介します。


Moja pieszczotka (いとしい人) 


Frédéric Chopin - « Moja pieszczotka» - Teresa Zylis-Gara

 

−歌詞−

いとしい人 君はご機嫌だと
鳥のように甘くささやき、歌いはじめる
その幸福の時を 一言も聞き漏らしたくないから
僕はただ黙って、返事をしない
僕はただ聞いている、聞いているんだ。


彼女は話しているうちに瞳を明るく輝かせ
ほっぺを果実のように赤く染め
真珠のような歯を サンゴのような唇から覗かせると、
ああ!そしたら僕は彼女の瞳をじっと見つめて、
唇に心も奪われて、もう声なんか聞こえず、
キスしたい、キスしたい、キスしたいだけさ!

 

 

   − 作詞:アダム・ベルナルト・ミツキェヴィチ Adam Mickiewicz (1798-185)

 

 ※歌詞は英語詩から邦訳しましたので、原詩とは異なるところもあるかもしれません。ご容赦ください。無断転載等はご遠慮ください。

 

 聴いていただいて分かる通り、素朴で聴き馴染みが良いメロディですよね。

また、若い青年の初々しいトキメキが音楽と共に徐々に高まっていく様子がなんとも愛らしい一曲です。随所にショパンらしい音使いもしっかり見えますし、寧ろこのショパン”らしさ”が私たちに馴染み深く響いてくるのかもしれません。

 ショパンの歌曲は先ほどもお話した通り、死後に集められたものなので、作曲の経緯や、曲が書かれた詳細な時期がはっきりとはわかっておりませんが、研究によっては、「僕のいとしい人」はおそらくショパンが恋した幼なじみのマリア・ヴォジンスカMaria Wodzińska (1819-1896) へ贈られた曲だとも言われています*3

  

 今回ご紹介した『ポーランドの歌』ですが、私の大好きなソプラノ歌手ディアナ・ダムラウDiana Damrauが、「Diana Damrau -Lieder」のCDアルバムで、8曲目「すてきな若者 Śliczny Chłopiec」, 10曲目「つわもの Wojak」, 16曲目「リトアニアの歌 Piosenka litewska」の三曲を歌っています。

彼女の溌剌とした歌唱もすごくおすすめです。

 

 楽譜に関しては、ポーランド音楽出版社から出ている「ショパン歌曲集」の楽譜を使うのが一般的なようです。(リンクは日本語解説付きのものを載せておきますね。)

 それから、「ポーランド声楽曲選集 第1巻-ショパン歌曲 」の楽譜ですと、楽曲解説に加え、ポーランド語歌詞にカタカナでの発音解説がついているようで、私を含め、ポーランド語初心者にはこちらがいいのかなと思います。
(本当は発音記号の方が好ましいですが、まずは気持ちよく歌ってみる方がスムーズに音楽に触れられてとっかかりにはなります。)

 

結び ー音楽と出会う喜び

 すでに200年以上の時が経ったことを忘れて、当時のファンと同じように新鮮に音楽を楽しむことができる。 それって本当に素敵なことですよね。

 私がクラシック音楽を愛する理由も実はそういうところにあって、時代も場所も全て飛び越えて、音楽の魅力を自分なりに発掘することは、現代の音楽とはまた違った感動があるんです。
 そして、新しい楽曲を知ったときには、昔の人たちが大切に守ってきた音楽を「自分自身の楽器で演奏できるかもしれない」ことに言い知れぬロマンを感じれるのです。これは演奏家ならではの感覚かもしれませんが、演奏家でなくても、クラシック音楽をもっと気軽に、誰でも口ずさんでみれたら素敵だと思うんです。

 自分でもまだ歌えない曲を紹介しておいて、何を言っているんだか、という感じですが、このブログによって、今後もいろんな音楽を知るきっかけが作れたら良いなと思っています。

 

 話が周り道してしまいましたが、今回、作曲人生の多くをピアノに傾いできたショパンの、あまり知られていない隠れた魅力をみなさまに共有出来たなら嬉しいです。

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

それでは、また。

 

小玉友里花

 

 

 

*1:ショパンの故郷であるポーランドの首都、ワルシャワで5年に一度、ショパンの命日である10月17日の前後3週間に開催される国際的に有名なコンクール。現在も続く国際音楽コンクールの中では最古のもの。

*2:中河原理著「声楽曲鑑賞辞典」東京堂出版 1998

*3:小坂裕子著「ショパン 知られざる歌曲集英社出版 東京 2002 89頁より